CORNERSTONE - ANTOINE HERVE TRIO

パリから届けられた音楽の歓び　恋を囁き、都市生活を彩るときめきのジャズ・ピアノ。夜のしじまのくつろぎと、朝の光の活力をあなたに……

またもフランスから良質のピアノ･トリオが登場した。そのリーダーはアントワン・エルヴェ。今日のブーム到来以前からトリオものを追いかけていたファンならば、彼のPHILOEレーベルから出たデビュー盤LP（1985年録音）をご記憶だろう。端的に申せばキース･ジャレットの影響を強く感じさせるトリオ盤だった。

1959年生まれで例に漏れず幼くしてピアノのレッスンを始め、15歳で自己のオーケストラを組織したというから早熟だ。フランスでもその才能は各方面より高く評価されており、他にビッグ･バンドのアレンジや現代音楽といった分野でも活躍している。そうした彼の多才ぶりから、本作の内容について若干危惧を抱かれる向きもあるかと思うが、どうかご安心戴きたい。全7曲がよく知られたスタンダードで、どれもがよく耳に馴染む。B.エヴァンスのヴィレッジヴァンガードでのライヴ・ヴァージョンを踏襲した"My Foolish Heart"など、エヴァンスに縁の深い曲目が並び、その多彩な表現にはCD一枚が物足りなく感じるほどだ。"My Romance"のみライブ録音だが、にもかかわらず全体の統一感を損なうことはない。現代風にビートを強調した"Caravan"と"Summertime"に新鮮さを覚えるのは筆者だけではあるまい。つくづくヨーロッパのピアノスト達は底知れず層が厚いなと圧倒される思いだ。これだからジャズファン、ピアノ好きは今後もATELIER SAWANOのニューリリースから目が離せないのだ。