ミラバッシ・トリオの日本公演初日、兵庫県西宮市の芸術文化センター。旅の疲れも見せず、メンバーは終始リラックスした様子です。特にミラバッシは以前にソロコンサートを行なったホールでもあり、ゆったりとサウンドチェックを始めます。
まず最初にドラムのセッティングに現れたレオン・パーカー。何度か叩いては調整を繰り返すうちに、スタッフに細かな指示を出し始めました。ドラムのシンバルとシンバルを支えるスタンドの間に透明なチューブを差し込んで隙間作る事によって、残響が長くなり過ぎないように調整したのです。たとえ連打されても程よい長さで残響が消え、1曲ずつプレイする度に、彼がシンバルのセッティングにとことん拘った理由が実感できました。スティックを持つ手の角度、叩く位置を目まぐるしく変え、一枚のシンバルからとは思えない驚くほど表情に富んだ音を自在に繰り出してゆきます。
ベーシストのジャンルカ・レンジは率先してパーカーのドラムのセッティング時にアイデアを出したり、他の二人の間に立ち終始にこやかにアイコンタクトをとるなど、人懐っこい彼の朗らかな性格が伝わってきます。指版の上を軽やかに踊るかのようなスピーディなプレイに、リハーサルの段階ですっかり魅了されました。
ミラバッシもリハーサル中は終始笑顔が絶えず、このトリオの充実度が伝わります。セッション時はお互いの引き出しからどんなフレーズが飛び出してくるのか?それをワクワクしながら待っているようです。2月からヨーロッパでツアーを行なっているだけあって、安定感もばっちりというところなのでしょう。いかに美しく、新鮮なフレーズを奏でるか、という事に没頭する様子に、数時間後に迫ったライブへの期待が高まります。リハーサルは重要事項の確認のみで、終始にこやかに行なわれました。
いよいよライブがスタート。「TERRA FURIOSA」はミラバッシの思慮深く、哀愁に満ちた旋律を心のままに紡いでゆく、というイメージでしたが、いざ幕を開けるとそのイメージはすっかり覆されました。優雅なたたずまいからゆっくりと立ち上がり、体から一切の無駄をそぎ落としたその体を見せ付け、美しいチーターのように疾走するミラバッシ。彼がこれまで発してきたリリカルなプレイの内側には、こんなにパワフルでしなやかな筋肉が秘められていたのだと、目が覚める思いでした。
彼の足元にはレンジのベースが創り出した大地が横たわります。なだらかな草原や隆起に富んだ岩山など、その背景を次々に変えミラバッシの疾走を美しく彩るかのようです。その広大な大地を舞台に、轟く雷鳴やスコールのように高らかに鳴り響き、空気を揺るがせるパーカーのシャープなドラミング。
次から次へとスピーディに移り変わる鮮やかな景色、さながら地球を舞台とした壮大なドラマを見ているかのようです。これまでの彼のトリオの中でも、一番力強く、疾走感に満ちたライブだったのではないでしょうか。
〜 ジョバンニ・ミラバッシ(p) インタビュー 〜

ジョバンニ・ミラバッシ(以下GM)「タイトルは非常に重要です。聴き手がまず作品を聴く前に触れるものは、アルバムタイトルですからね。」
レコーディングを終えた後、その時彼の頭の中でいくつか浮かんでいた候補の中から選ばれた「TERRA FURIOSA」はイタリア語で、直訳すると「CRAZY EARTH」を意味します。同時多発テロやイラク戦争など、不穏な情勢をイメージさせるこのタイトル。
---このアルバムを通じて、正常な世の中に戻したい、というメッセージを込めたのでしょうか?
GM:いえ、私は何も変えたくは無いんです。ただ歌を歌っていたいんです。(このアルバムを通じて)警告を発したり、何も説明しようともしていません。私は自分が感じたままにピアノを奏でるだけ、そう考えています。世界で何が起こっているのか非常に興味がはありますが、それについて描写しているわけではないんです。
---この作品の聴いてどう感じるかは、聴き手にゆだねられていると。
GM:もちろん。音楽は小さな世界のようなものです。私は実際には、音楽を通じて自分自身のストーリーを物語っているんです。同様にこの作品を聴いた人は私の音楽から、あなた自身の物語を感じ取るでしょう。

又「TERRA FURIOSA」のジャケットには、彼の最初のピアノソロアルバム「AVANTI!」にも収録されている、フランスの詩人・小説家、ルイ・アラゴンの詩に、フランスのシャンソン歌手レオ・フェレが曲をつけた「Je chante pour passer le temps(I sing to pass the time)」の一節が書かれています。ルイ・アラゴンの詩集をジャケットのポケットに入れ肌身離さず持ち歩いているミラバッシ。
GM:私の心は常にルイ・アラゴンと共にあります。私は彼の詩を非常に気に入っていて、その中でもこの詩は特別なものなんですよ。
ミラバッシが自身の人生を投影するその詩を、今回のアルバムに刻み付けたことにより、彼の「TERRA FURIOSA」に対する並々ならぬ思い入れが伝わってきました。
---ライブではCDに比べて、よりパワフルな演奏になっている印象を受けました。
GM:スタジオでのレコーディングとライブは別物ですから。レコーディングとライヴの違いは、写真と映画の違いのようなものです。このトリオで2月からレバノンやイタリア、フランス各地などを沢山ツアーして来たから、お互いへの理解も、より深まっています。

---新しいトリオメンバーについての印象はどうですか?
私は本当に「LUCKY」ですよ!ドラマーのレオンは、非常に重要な存在ですね。最初はベーシストのジャンルカと一緒に、別のドラマーとプレイしていたんです。彼は最初ゲストとして招いたんですが、一緒にプレイするうちにより親密になって、結局全ての曲に参加する事になりました。
---最後になりましたが、日本のファンにメッセージをお願いします。
日本に戻ってこれて、本当に嬉しいです。心からこの国を愛しています。インターネットで日本語のレッスンを受けようかとさえ思ったぐらいにね!
〜 ジャンルカ・レンジ(b) インタビュー 〜

---このトリオで最初にプレイした時の印象はいかがでしたか?
ジャンルカ・レンジ(以下GR):最初はレオン(ds)がいなかったんだけれど、彼が参加するようになってから、全てが本当にパーフェクトになりましたね。レコーディングの前にもリハーサルする必要が無いほどで、全てが適材適所、という印象を受けました。本当に素晴らしい経験でしたね。レコーディング自体もほとんど1テイクで、多くても2テイク目でOKが出て、5時間ぐらいで終わってしまったんですよ。
---日本のライブの印象は?
GR:本当に日本のオーディエンスは素敵ですね。こちらのプレイに対して、フィードバックが良いんですよ。
---先日の兵庫の公演では、スタンディングオベーションも見受けられましたよね。
GR:そうそう!とても素晴らしかったね!日本のオーディエンスは「音楽を聴く」事を心から楽しんでいるんだ、っていう事を感じ取ることが出来ました。

---日本のファンへのメッセージをお願いします。
この公演には本当に満足しています。又日本へ呼んで下さい。この国でプレイするするのが好きだし、オーディエンスからは沢山のパワーを貰えました。良い反応が返ってくるから僕達も良いプレイで応える、これが「コミュニケーション」なんですよね。
〜 レオン・パーカー(ds) インタビュー 〜

---今回のトリオに参加された感想を聞かせてください。
レオン・パーカー(以下LP)僕はアメリカ人だけれども、ヨーロッパに根を下ろして活動したいと思っているんです。今回のトリオへの参加は、とても良い機会となりました。
---ジョバンニ・ミラバッシの魅力についてはどう感じていらっしゃいますか?
LP:僕は彼のジャズのスタイルというよりも、彼の音楽に惚れ込んでいる、というのが正しいですね。僕が思うに、ジョバンニの音楽は非常にリリカルで、クラシック音楽のように感じるんです。でも同時にスウィング感もある・・・。普通のジャズピアニスト達はジャズのスウィング感と、クラシックの「テクニック」のみを持っています。けれど彼等はクラシック系ミュージシャンとしての「気構え」は持っていないんです。
でもジョバンニはその「気構え」、「テクニック」両方を備えていて、同時にスウィングする事も出来るんですよ。
---今回のアルバムをレコーディングする際、最初にミラバッシから方向性についての提示等はあったのですか?
LP:いやいや、無いですよ。「音楽」そのものが僕自身に問いかけて来るんです。音楽そのものが明快な方向性を持っているから、それを掴む事は簡単だね。ジョバンニが自らの音楽に込めた思いを、僕は聴きとるだけなんだよ。

---初めてレオンさんのドラムを生で聴いて、ハイハットやタムを手で叩いたりと、自在なドラムの操り方に惹き込まれてしまいました。
LP:今僕の事「leon-san」って呼んだの?その呼び方大好きだよ!
ええとね、僕にとってドラムとパーカッションの間には何の違いも無いんです。手や指を使うのも、手を叩いたり、スティックを持つことも皆同じなんですよ。
(静岡公演では、ヴォイス・パーカッションやフロアの壁さえも叩いてドラムの一部にしてしまうなど、オーディエンスの喝采を浴びていました。)
日本のファンへのメッセージをお願いします。
LP:次のレオン・パーカーのCDを買ってください!はははは!そうだね・・・又ここに戻ってきたい、この言葉に尽きるよ。
最初は数曲のみのセッションだったはずが、3人が意気投合した事により生まれた「TERRA FURIOSA」。3人ともが「歌心」を持ち、同じ情熱を共有するからこそ、このドラマチックなライブが生まれたのでしょう。このトリオの完成度の高さを、ライブで存分に実感することが出来ました。
■3月27日(木) 兵庫県立芸術文化センター・小ホール セットリスト
++1st set++
1. Softly, As In A Morning Sunrise
2. Alfonsina y el mar (AS073-1)
3. W.A.F (AS073-7)
4. Radicaux libres (AS073-6)
5. Amba (AS073-8)
++2nd set++
1. Worry doll (AS073-9)
2. #3 (AS073-2)
3. Sienna's song (AS073-3)
4. We Have the blues Mr.President (AS073-10)
5. Last minutes (AS073-5)
++encore++
1. Vuelvo al sur (piano solo / Astor Piazzolla)
2. Le chant des partisans (SKE333015-2)
■3月31日(月) 銀座・王子ホール セットリスト
++1st set++
1. The old country
2. Alfonsina y el mar (AS073-1)
3. W.A.F (AS073-7)
4. Radicaux libres (AS073-6)
5. Last minutes (AS073-5)
++2nd set++
1. Worry doll (AS073-9)
2. #3 (AS073-2)
3. Sienna's song (AS073-3)
4. We Have the blues Mr.President (AS073-10)
5. Amba (AS073-8)
++encore++
1. Le chant des partisans (SKE333015-2)
2. If I should lose you