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REPORT 2007年3月13日
澤野由明 NY滞在レポート
北川潔のレコーディングに立ち会いました

日本はかつて無い程の暖冬。そんな2月の某日、澤野社長はあるレコーディングに立ち会う為、アメリカはニューヨークへと旅立ちました。澤野由明のNY滞在レポートをお届けします。

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北川潔。拠点としているNYでは言うまでもなく、世界各地で様々なミュージシャン達と精力的にライブを行い、最も充実した活動を行っているベーシストの一人ではないでしょうか。2005年の来日公演「アトリエ澤野コンサート2005」も成功、2枚のアルバム「ANCESTRY」【試聴・購入】「PRAYER」【試聴・購入】続く彼の3枚目のリーダー作、ぜひともこの録音を見届けたい。この絶好の機会は逃したくはありませんでした。

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初めてのNYに降り立った瞬間。事前に散々脅されていたアレが襲ってきました。NYは今年一番の寒さ、「平均-10度の極寒」です。体の…芯から…冷えます!痛いです!日本から分厚いタイツを履き、スキー用グローブで防備して行きましたが、到着後に即、帽子を購入です。やや語弊がありますが、「こんな所に良く住めるな…」というのが正直な気持ちでした。ヌクヌクと過ごしている関西人には耐えられません。

移動は主に地下鉄を利用します。地下鉄のホームは少々古く、日本の昭和20〜30年代を彷彿とさせます。コンクリート打ちっぱなしで、あちこちに修繕の痕。壁も落書きだらけです。複雑に絡み合う地下鉄を乗り継いで行くのは、ちょっとした冒険気分です。

乗っている間怖い目に遭うことは特に無かったのですが、停まる筈の駅が何個もすっ飛ばされ、降りたい駅で降りれなかったりしました。乗客達も過ぎ去る駅を唖然と見送ります。後で乗客が運転手を取り囲んで文句を言っていたので、運転手が間違えたに違いありません。(ラッシュ時と通常時で停まる駅が違うらしいです)。

リハーサルスタジオは、タイムズスクエアのすぐ近くにあるStudio「Michiko」。一帯は「マンマミーア」「ライオンキング」等のミュージカルの看板、聳え立つビル、ネオンサイン、窓の一枚一枚に至るまで、すべてが日本と違う雰囲気です。日本の街中でも英語は目に付きますが、町並み全体を見ると「醤油」と「ソース」という文化の違いが如実に表れています。

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今回の北川のニュー・アルバムに参加するダニー・グリセットは、日本では知る人ぞ知る31歳の若手ピアニストの有望株。ダニーの起用は、北川が帰国時に、彼と飲みながら「次回作のピアニストは是非新人の有望株を…」と話していた私の願いに応えてくれたものでした。

聞いたところによると、今回は全曲北川のオリジナル曲。既に譜面はブライアン、ダニーの手元に送られており、北川とダニーは既にエキストラドラマーと共にリハを数回行っている模様。北川はもちろん、新加入のダニーに会える事を楽しみにしつつスタジオへ到着すると、開始1時間前にもかかわらず、既にブライアンは到着していました。続々と他メンバーも集まり、しばし談笑した後、いよいよリハーサルがスタートです。

始まるや否や、いきなりのエンジン全開。ありえない。いつもにこやかなブライアンは、スティックを持つと容貌が一変します。演奏中は全神経を集中させている為か、にっこり笑ったかと思うと大声を上げたり、嬌声をだしたりと、自身の音を全身で表現しています。北川の書いた譜面に、今まで経験した事の無い程の魅力を感じた所以でしょうか。未体験サウンドを楽しみながら曲を仕上げていこうという姿勢が見えます。

ダニーは最初は控えめでおとなしく見えましたが、途中から両者に負けじと強烈なタッチで絡んできます。次第に自分のアイデアも主張するように…いいぞいいぞ!ただ今までの仮ドラマーでのリハと構成が全く変わってくる事に、北川はもちろんダニーも驚きを隠せないようです。二人とも自分たちのあらかじめ考えていた演奏からどんどん昇って行くという感じでしょうか…。

レコーディングのリハとは、まるでバラバラだったジクゾーパズルを組み合わせてゆくようです。3人のアイデア、個性を出し合い、解を求めてゆく様は、非常に興味深いですね。リハで曲を創り上げる作業は重要なのだなと思いました。

見ていて、聴いていて、こんなに刺激的なリハなんて多分無いでしょう。ふと振り返ると、閉じられたリハーサル室の扉の窓から覗き込む顔、顔。多分、外に漏れる音に驚いた他の部屋のミュージシャンだったんでしょう。ドアを開けた途端、あのベースは誰か?あのドラムってもしかしてブライアン?ピアニストは?と質問攻めでした。

4時間はあっという間に過ぎました。リハで既にこの凄さ。明日のレコーディングが楽しみです。

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レコーディングスタジオ周辺はものすごく清潔で、地面にはごみひとつ落ちていません。チャイナタウン、コリアタウン、イタリア人居住区など、NYは1ブロック毎に全く違う街に変化してゆく所です。街を歩けば歩くほど、色々な民族が集まって作った、変化に富む街ということがよく分かります。(中華料理の店だと思って入ったらメキシコ料理だった、なんて事もあります)

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レコーディング初日の朝10時。北川、ブライアン、ダニーの順に到着。ブルックリンのディトマス・アべニューにあるスタジオ「SYSTEM TWO」にてすぐさま音出しにかかります。モニター室にベースの音が飛び込んでくる。エンジニアのマイクが「素晴らしい音だね、このベーシストは!」としきりに感心しています。そうだろう?私が大好きな音だもの。ブライアンのドラムのセッティングも終わり、いよいよスタートです。

モニター室で聴く北川のベースに、思わず私の顔は綻びます。彼のベースが、ブライアン、ダニーを走らせる、走らせる。そういえば最初に北川氏のベースを聴いた時、彼の紡ぐ音はもちろんですが彼が起点となり、他のメンバーに与えるエネルギー、高揚させるパワーによりしびれるような感動を覚え、好きになったんだったな…と再認識しました。

北川のベースに弾かれるようにブライアンは何度もヘッドフォンを飛ばし、あるい演奏中に椅子から跳びあがり、ダニーは切れのある魅力的な音をたたき出し続けます。綺麗な、実に綺麗な音です。このアルバムを聴いた時、みんな驚くだろうな。

一曲終わるごとにモニター室に戻り、終えたばかりのテイクをみんなでチェックします。作品になればそれはずっと聴き続けられるもの、そして後世に残るものという意識が生み出す緊張感。それはそれは非常にシビアな世界です。一曲一曲、お互いの意見を丁寧に積み重ね、出来上がっていきます。

北川のオリジナルの譜面には、メンバーを触発する秘密が隠されているのでしょう。それはダニー、ブライアンに、極限までのアイデアを要求している…その過程を皆必死で楽しんでいる感じでした。きっとブライアンが「北川との仕事ならいつでもOKだよ」と言う理由はここにあるのでしょうね。

前2作「Ancestry」、「Prayer」。私は北川のオリジナル曲が好きです。今回は全曲北川のオリジナル。たった3日間でしたが、リハーサル、録音と彼らと時間を共にして、彼が紡ぎだす音楽の誕生〜熟成され作品になる様に圧倒されました。1曲、1曲のTakeの後、play backを聴き終えた北川が私に「いまのtake、どうですか?」と訊いてくれます。勿論、答えは「最高!!」しかありません。

北川のファーストアルバム「Ancestry」を出したときに、あるレーベルのオーナーに真意の程はよく分かりませんが「どうして澤野はこんなアルバムが創れるんだ?」っと訊かれたことがあります。私の答えは「何故なんでしょう?…僕にもわかりません」でした。ただ言える事は、私はMusician、そして彼らの作品をリスペクトし、それを皆さんに届ける…みなさんに届くように願っている。私の仕事は、そんなシンプルな想いが全てなのだと思います。

レコーディングは二日間にわたりました。2日目は残りの曲の収録、及び再検討した曲のテイク。最高の雰囲気で無事終了。ライブ演奏のような熱気をそのままスタジオ録音したような作品が出来上がりました。多分今回のアルバムと比べられるものは、他に無いのと違うかな。収録後、北川が「何の制約も受けずに、いいレコーディングができました。ありがとう!!」っと言ってくれました。僕は改めて北川潔TRIOのNew Alubumをリリースできることを誇りに思っています。冬に日本で会いたいねといったら、メンバー全員「もちろん」と答えてくれました。

レコーディングについて…北川潔 インタビューはこちら!

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レコーディング終了後、北川の案内でNYの夜景を愉しみながら、ここでの濃密な時間を振り返ります。以前DVD撮影で行ったパリが「文化の街」だとすると、ここNYは「変化の街」。新しいもの好きな人間にはたまらない刺激に満ちていました。短い滞在だったのがつくづく残念です。地下鉄の乗り方、チップの払い方さえ覚えれば、誰もが何日でも歩き回りたくなると思います。本当に魅力的な街でした。

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